東京都の飲食店時短営業要請も開けた9月17日木曜にミヤシタパーク内の「渋谷横丁」へ顔を出した友人が、渋谷横丁が人が多すぎて入れなくて散歩だけして別の店に行ったと話していた。
彼も私もコロナ禍で店舗物件需要が無くなっていることについて常日頃から意見交換をしており、これから店舗物件はどうなっていくのか、もう一段階掘り下げると店舗を借りてくれる外食産業がどうなるのかと、動向を注力している。
ミヤシタパークは渋谷宮下公園の再開発で、コロナを直撃して海外のハイブランドなどは開店休業だと聞いていたし、飲食店部分の渋谷横丁は19件の区画を19社で出し合うのでは無く1社で全19区画を出店するということで、まるで賭けに負けたかのように開店前から哀れみの注目を浴びていたのだった。
しかし、蓋を開けてみると渋谷横丁は連日大人気。
コロナに最低限気を使っているアピールをしなければならない大人にとって、渋谷横丁はオープンエアーで換気された場所であり、普段通り飲めない息苦しさ、を発散する意味でも新しいスポットの開拓欲求を満たす、絶好の飲食スポットとなっていた。
画像1.渋谷横丁公式サイトのスクリーンショットを撮影したもの
外食産業といえば、酒業態に限ってはまだ売り上げの回復が60%程度というグループも多く、店舗の撤退が相次いでいる。
テイクアウトやデリバリーの強化にしたがって、業界で新たに注目されているのがクラウドキッチンという、客席を作らないキッチンだけの集合設備だ。
通常50坪の店舗であれば、10坪のキッチンに40坪の客席など、店舗の70%から80%を客席として利用することになる。客席があるということは、接客をするホールスタッフが必要になり、注文を取り、調理を運び、レジを打つスタッフの人件費/採用費が必要になる。
お客様用のメニューやポスターに店内BGMに清掃からトイレまで、お客様がいることで必要になる経費は多い。さらにコロナ禍であれば換気設備、仕切り、消耗品のアルコール消毒までやった上で、通常の席を半分に減らして営業するなど来客にかかる経費が利益を超えてしまっている。
話を戻してクラウドキッチン とは何かというと、50坪の店舗を4坪×10区画に分けて、10区画全てに冷蔵庫やコンロや流しなどを備えた、10店舗に分割しようというキッチン版のシェアオフィスのようなサービスだ。
お店の駐車場やトイレや更衣室など調理に不必要な設備は10店舗で共有し、各店舗には調理機能しかない。
客席の分70-80%の家賃は要らないし来店もないので、ホールスタッフの採用費も人件費も要らない。メニューやオーダーもないし、酔っ払いがトイレで面倒を起こすことも過度な清掃も要らないし電話予約も予約キャンセル対応もない。極論、10区画10店舗に1人ずつシェフが入れば営業が成り立つ。
客席も来店もないということは、どうやって注文を取って売上をあげるのかというと、Uber Eatsのようなオンラインフードデリバリーサービスを活用する。
このように、自前で店舗を借りたり調理設備を購入しなくても安価に利用できる不動産利用サービスとしてクラウドキッチンが登場し、オンラインフードデリバリー専門の飲食店をゴーストレストランと呼ぶ。
海外のゴーストレストランではフードデリバリー専門で、来客もないので場所がわからない=ゴーストレストランという名前がつけられたのだが、これが日本に入ってきたことでどう日本独自の進化をとげるのかが、いま外食産業で注目されているのだ。
画像2.筆者作成のクラウドキッチンイメージ
日本は、その国土の狭さから、歴史的にオンデマンドサービスがことごとく失敗してきた。
ハイヤー歯医者サービスのUberが流行り出した2014年ごろには、XX版のUberとも呼ぶべきUber for XXXというオンデマンドサービス(要求に応じてすぐに何かが届くサービス)がたくさん生まれたのだが、日本ではほぼ全滅してしまった。残っているのは出張クリーニングぐらいだろうか。
今でこそUber Eatsが根付いているが、2014年ごろのフードデリバリーサービスは全滅だったし、そもそも本家の米国と違って日本は国土が狭いために、呼ばなくてもタクシーは都内中にいるし、呼ばなくても家の近くにセブンイレブンと𠮷野家がある。
クラウドキッチンに話を戻すと筆者は、フードデリバリー専門の飲食店=ゴーストレストランを日本にローカライズすると、郊外で大規模なキッチンを作って分割するのでは無く、都心の空中階など二等地に作って、フードデリバリー+テイクアウトの形で広まるのではないかと仮説を立てていた。
そこにミヤシタパークの「渋谷横丁」が盛況だという話を聞いたものだから、日本のゴーストレストランは、フードデリバリー+テイクアウトだけでは飽き足らず、共通の客席もつくんじゃないかと考えを改めたのだ。
フードデリバリー+テイクアウト+客席(全店舗共通)
この形態の外食店は、フードコートと呼ばれ、古くからショッピングモールなどに存在している。
画像3.オープンエアのフードコートイメージ/Pakutasoフリー素材
このフードコートをデジタル化しオンライン注文に統一し、
・デリバリーで届けてもらうのか
・通販で翌日届けてもらうのか
・取りに行くのか
・取りに行ってその場で食べるのか
それぞれ注文者の需要に合わせて選ぶことのできるフードコート、フードホールという形で、日本版ゴーストレストランはローカライズするのではないだろうか。
ミヤシタパークの「渋谷横丁」の活況は、日本のクラウドキッチンをフードコートのデジタルトランスフォーメーションとして進化させるキッカケになるだろう。
日本版クラウドキッチンは、コロナで大打撃を受けているショッピングモールやショッピングセンター飲食店街の救世主になるのかもしれない。
(著:日曜日の荒木賢二郎)